VENUEと無数のプラグインが実現する、“クリエイティブなライブ・ミックス”
Linkin Parkのライブ・サウンドを支えるVENUE
ヘヴィ・ロックをベースに、ヒップ・ホップやハード・コア、エレクトロニックといった幅広いジャンルの要素を盛り込み、独自の音楽性を確立しているアメリカン・バンド、Linkin Park。その唯一無二のサウンドは、世界中の音楽ファンの間で熱狂的に支持されており、これまでドロップした作品はいずれもメガ・ヒットを記録しています。魅力的なアーティストが数多く現れた2000年代の音楽シーンにおいても、Linkin Parkは最重要ロック・バンドのひとつと言っていいでしょう。
そして2010年秋、Linkin Parkが約3年半ぶり、4枚目のフル・アルバムとして発表した作品が『ア・サウザンド・サンズ(A Thousand Suns)』です。この作品は、人間の恐怖をテーマにしたコンセプチュアルな作品で、歴史上の人物たちのインタビュー/スピーチ音源をサンプリングして大胆に使用。そのメッセージ性の高い内容と、これまで以上に緻密に仕上げらたサウンドは、世界中の音楽ファンの間で高く評価され、多くの国々でアルバム・チャートの1位に輝きました。現在もなおその勢いは衰えることなく、アメリカやイギリス、日本ではゴールド・ディスクを獲得するなど、ビッグ・セールスを記録し続けています。
『ア・サウザンド・サンズ』のドロップ後、ニューヨーク公演を皮切りにワールド・ツアーに出たLinkin Park。南米、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、北米、香港、韓国、そして日本と、地球上をくまなく回り、世界中のファンを熱狂の渦に巻き込んでいます。
そしてこのタフなワールド・ツアーをサウンド面で支えているのが、Avidのライブ・コンソールVENUEです。2007年のワールド・ツアーで初めて使用されて以降、VENUEはLinkin Parkのライブに無くてはならない存在となりました。長年、Linkin ParkのFOHエンジニアを務めているケネス“プーチ”ヴァン・ドルーテン(Kenneth "Pooch" Van Druten)氏は、「VENUEを導入したのは自然の成り行きだった」と語ります。
「だって、Linkin Parkのメンバーは全員、Pro Toolsのヘヴィ・ユーザーだからね。これまでの彼らの作品はすべて、プリプロからファイナル・ミックスに至るまで完全にPro Toolsで作られている。そんな彼らがのツアーでは、コンソールにVENUEを使う方が自然だったんだ。そういうわけで、LInkin Park のツアーのために、2007年、私は個人的にVENUEを購入したんだ。
VENUEの導入は、私とバンド・メンバーのコミュニケーションをより円滑なものにしてくれたよ。たとえば彼らがFOHにやって来たときに、画面を見れば私が何のプラグインを使っているか一目で分かるし、ルーティングだって説明しなくても理解してくれる。そしてバンドのメンバーが“この曲ではWavesのMetaFlangerを使ったんだ”と教えてくれれば、ライブの現場でも同じ処理を施すことが可能なんだ。VENUEを導入してからは、バンドのメンバーやアルバムのミックスを手がけたエンジニアに、プラグインのプリセットを貰うこともあるよ。それをインポートすれば、アルバムのサウンドがライブでもそのまま再現されるというわけさ。こんな芸当、昔だったら考えられないよね」(ドルーテン氏)
VENUE以前はアナログ・コンソールを愛用していたというドルーテン氏ですが、2003年頃からライブ・レコーディング用にPro Toolsを使用していたため、VENUEのオペレーションにはすぐに馴染めたと語ります。「VENUEのアーキテクチャーは、Pro Toolsによく似ているからね。Pro Toolsを理解していれば、VENUEを扱うのはそんなに難しいことじゃないよ」(ドルーテン氏)

もともとはレコーディング・エンジニアからライブ・エンジニアに転身したドルーテン氏は、長らくアナログ・コンソール派でした。「デジタル機器が世に出始めた後も、優れたアナログ機器の方が音質面では絶対的に勝っていると感じていた。たとえば私が愛用していたアナログ・コンソールは、出力のバイアスが非常に素晴らしかったんだ。音を突っ込めば、出力段で自然なコンプレッションを得ることができる。あの何とも言えない効果を、デジタル機器を使って再現するのはとても難しかったんだ……VENUEを使い始める前まではね。VENUEを使い始めてから、私はアナログ・コンソールの自然なコンプレッションが得られないか試行錯誤を繰り返したんだけど、プラグインを上手く使うことで、かなり近い効果を得ることができるようになったんだ。正直、今でもアナログ・コンソールのサウンドが恋しくなることはあるよ。ただ、VENUEならば、それに近いサウンドが得られるうえに、スナップショットは保存できるし、膨大な量のアウトボードを用意する必要もない。そういうことを考えると、どちらかを選択しろと言われたら、私は間違いなくVENUEをチョイスするだろうね」(ドルーテン氏)
ドルーテン氏のVENUEはProfileシステムで、DSP MIX Engineカードを5枚装着した大規模なシステムとなっています。「私はProfileシステムのコンパクトさがとても気に入っているんだ。手が届く範囲に24本のフェーダーが並んでいるので、非常に操作しやすい。もちろん、D-Showシステムも使ったことがあって、チャンネル・ストリップにエンコーダーが2基備わっているのはいいなと思った。ただ、私の場合はもうProfileシステムに慣れてしまったので、1基のエンコーダーでも素早く操作することができるよ」(ドルーテン氏)
無数のプラグインを活用して、クリエイティブなミックスを行う
レコーディングの世界でPro Toolsがスタンダードになったように、コンサートSRの世界でもVENUEがスタンダードになりつつあります。業務用音響機器がアナログからデジタルに移行するのに合わせて、多くのメーカーがこぞってSR用のデジタル・コンソールを市場に投入しました。どれもユニークな特徴を有していますが、その中でVENUEが多数のトップ・エンジニアに支持されたのには、どのような理由があるのでしょうか。 「理由はいろいろあるだろうけど、突き詰めていくとプラグインということになるだろうね。少なくとも私にとって、VENUEの最大の魅力と言えばプラグインだ。スタジオで慣れ親しんだアナログの1176やLA-2Aが、ユーザー・インターフェースもそのままにコンソール内部で使えるというのは最高だよ。しかもスタジオでは使える台数に限りがあったのに、VENUEならDSPのパワーが許す限りいくらでも使うことができる。まさにエンジニアにとっては、夢のような環境だよね。
プラグインは、ライブ・エンジニアをよりクリエイティブな存在にしたと思う。私がライブ・エンジニアとしてのキャリアをスタートしたときは、ショーの始まりから最後まで、ボーカルさえちゃんと聴かすことができれば大成功という感じだった。不思議なことのように聞こえるかもしれないけど、当時のサウンド・システムではボーカルを際立たせるということがとても難しかったんだよ。しかし今は違う。優れたサウンドを持ったデジタル・コンソールの登場により、ボーカルを際立たせることができるようになった。だから今は、ライブ・エンジニアにはそれ以上のことが求められているんだよ。もっと言えば、質の高い、クリエイティブなライブ・サウンドだよね。テクノロジーを駆使して、観客に新しいライブ体験を提供する。そしてクリエイティブなライブ・サウンドを作り上げるには、VENUEとプラグインは最高のツールというわけさ」(ドルーテン氏)

ドルーテン氏のProfileシステムには膨大な種類のプラグインが用意されています。標準のものに加え、Waves Mercury Bundle、McDSP Emerald Pack、SoundToys TDM Effects、Antares Auto-Tuneなどをインストール。数百にも及ぶプラグインを駆使して、質の高い“クリエイティブなライブ・サウンド”は作り上げられます。
「VENUEを使い始めたときは、とりあえずVENUE All-Access Pack(註:AvidがリリースしていたVENUE用のプラグイン・バンドル)をメインで使っていたんだけど、Wavesのプラグインに出会ってからはそのサウンドに惚れ込んでしまってね。今ではMercury Bundleをインストールして、使用するプラグインの9割以上はWavesのものさ。
Wavesのプラグインは、とにかく音が良いんだ。内部でどんな処理が行われているのか分からないけど、アルゴリズムが他社のプラグインとはまるで違うんじゃないかな。彼らのプラグインを使うと、アナログのアウトボードと同じような音を作ることができる。まるで昔に戻ったかのようなノスタルジックな感じになるくらいだよ(笑)。Wavesのプラグインを使い始めてから、私のミックスは更にステップアップしたと思う。いろいろなプラグインを試すんだけど、最終的にいつもWavesを選んでいるね」(ドルーテン氏)
Wavesプラグインの中では、C6、Renaissanceシリーズ、そしてL2が気に入っていると語るドルーテン氏。中でもC6は、ボーカル・チャンネルとマスター・チャンネルで使用するコンプレッサーとして、欠かせない存在であると言います。
「ライブでは、楽曲が変われば全体のトーンも変わる。たとえば、ある曲ではベースが250Hzまで出ていたとしても、次の曲ではそこまで出ないかもしれない。そんな楽曲ごとのトーンの変化を調整する際に、C6は最適なプラグインなんだ。C6はフリケンシーの変化を実にスムースに調整してくれる。画面を見てもらえれば分かると思うけど、とても微妙な使い方だけどね」(ドルーテン氏)
Linkin Park のライブでは、チェスター・ベニントンのボーカル・チャンネルに、C6のほか、Renaissance Compressor、Renaissance Equalizer、そしてMaxxVolumeといったプラグインもインサートされます。
「この4つのプラグインは、ボーカル・チャンネルの定番セットだ。Linkin Park以外のバンドを手がけるときも大抵同じ組み合わせだね。中でもMaxxVolumeは、ボーカルを際立たせるのに最高のプラグインだ」(ドルーテン氏)
ボーカル以外のチャンネルでは、VENUE標準のEQ/ダイナミクスがメインで使用されます。そしてAUXチャンネルにインサートされた多彩なプラグインによって、各チャンネルにクリエイティブな味つけが施されます。
「スタンダードなディレイとしてはDigiRack Mod Delay II、コーラスはWaves MetaFlangerとMondoModを使用していて、あとはボーカル用のディストーション、Bomb Factory SansAmp PSA-1もAUXチャンネルで使用するね。リバーブはTC Electronic DVR2とVSS3がメインで、その他にもAUXチャンネルには、SoundToys EchoBoy、SoundBlender、Bomb Factory MoogerFooger Ring Modulator、AVID Lo-Fiといったプラグインがインサートしてある。これらをフル活用して、クリエイティブなミックスを行うのさ」(ドルーテン氏)

すべての公演はPro Tools|HDにダイレクト・レコーディング
ドルーテン氏のProfileシステムにはHDxオプション・カードが装着されており、Linkin Parkの公演はすべてPro Tools|HDシステムにダイレクト・レコーディングされています。FOHスペースの両端に立てられたアンビエンス収録用のマイクは、M-Audio OctaneをHAとして使用してFOH Rackに入力。また、バックアップ・レコーディング用オーディオ・インターフェースとして、M-Audio ProFire 2626も活用されています。
「Linkin Parkは、すべての公演の音源をWebで公開しているんだ。だから私は昼間、控え室でPro Tools 9とMacBook Proを使って、前夜の収録データをミックスしている(笑)。昔はこんなこと考えられなかったよね。ミックスしているときに、バンドのメンバーやマイク・シノダ(註:Linkin Parkの共同プロデューサー)がやって来たら、私は彼らにMacBook Proを渡すよ。だって彼らのPro Toolsのオペレーションはもの凄く速いからね。特にマイク・シノダは凄いよ。彼は本当のPro Toolsマスターだ」(ドルーテン氏)
VENUEと多数のプラグインによって、ライブ・ミックスがよりクリエイティブなものになったと繰り返し語るドルーテン氏。今後もVENUEとプラグインを駆使して、迫力のあるライブ・サウンドを作っていきたいと語ります。
「あるアーティストから声をかけられたのがきっかけで、レコーディングからライブに軸足を移した私だけど、今ではこの世界の虜になっているよ。ライブの現場では、レコーディングの現場以上にバンドとの一体感を感じることができるからね。何万人もの人たちが雄叫びをあげている中でミックスしていると、私自身もどんどん興奮してきて鳥肌が立ってくるんだよ(笑)。その感覚が大好きなんだよ」(ドルーテン氏)


