NOKKO “こころから歌いたい 〜母になったNOKKO〜” トップ・エンジニア GOH HOTODAが語るライブ・ミックス術
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伝説のバンドREBECCAのボーカリストとして一世を風靡し、解散後はニューヨークを拠点にワールドワイドなソロ活動を展開、現在は静岡県熱海市に住居兼アトリエを構え、精力的に創作活動を続けているシンガーソングライター、NOKKO。昨年1月、デビュー25周年を記念してリリースされたカバー・アルバム『KISS』では、REBECCA時代のヒット曲を中心に、ソロ・ワークを代表する名曲『人魚』、さらにはサザンオールスターズの『いとしのエリー』や佐野元春の『SOMEDAY』といった日本のポップス史に残る楽曲を美しいアレンジでカバーし、大きな話題を集めました。また、昨年12月にはライブ・イベント『EMTG MUSIC Fes. 2010』(於・さいたまスーパーアリーナ)に出演、『KISS』に収録されている楽曲をアコースティック・アレンジで歌い上げ、名曲『フレンズ』ではJUJUとのデュエットも披露。このライブの模様は、アーティストであるのと同時に一児の母でもあるNOKKOの今に迫ったNHKのドキュメンタリー番組『こころから歌いたい 〜母になったNOKKO〜』の中でオンエアされました(NHK総合及びデジタル総合で2011年2月11日及び14日)。
そしてこのドキュメンタリーの中で使われるライブ・テイクのレコーディングとミックスを手がけたのが、NOKKOの公私に渡るパートナー、GOH HOTODA氏です。通常、報道番組内で使われるライブ・テイクは放送局側が収録を行いますが、そこには氏のサウンド・クオリティに対する強い拘りがありました。
「NOKKOはあくまでもアーティストなので、たとえそれがドキュメンタリー番組の一部であろうと、ライブ・テイクのサウンド・クオリティは一定水準に達していなければならないと思ったんです。ですからその意向をNHKサイドに伝えて、レコーディングからミックスまで、僕が責任をもって仕上げることにしたんですよ。番組内で使われるのはほんの一部だとは思うんですが、どの部分が使われてもいいように、全曲フルにミックスしました」(HOTODA氏)
MSI JAPAN 東京がPAを担当した『EMTG MUSIC Fes. 2010』では、すべてのアーティストがVENUE Profileシステムを使用しました。レコーディング用のPro Tools|HDシステムはメイン用とバックアップ用に2式用意され、VENUE Profileシステムに装着された2枚のHDxカードに各々を接続。最新のVENUE Software 2.9に追加された“リダンダント・アウトプット”機能を使用し、2式のPro Tools|HDシステムに同時にレコーディングされました。アンビエンス・マイク(Lauten Audio ST-221 Torch)はアリーナ中央のFOHスペースの両端に2本立てられ、その出力はPREを経由してFOH RackのTRS入力を利用してレコーディング。また、メイン用のPro Tools|HDシステムには192 I/Oが接続され、これはレコーディング時の検聴用に使われました。
「一昔前までは大きな中継車を呼ばなければ出来なかった高品位なレコーディングが、VENUEとPro Toolsのおかげでシンプルかつ低予算で行えるようになった。これは本当に画期的なことだと思います。それでなければ今回も中継車を呼ばなければならなかったわけですから。クオリティに関しても何ら問題はありません」(HOTODA氏)
レコーディング後の編集〜ミックス作業はすべて、HOTODA氏の自宅地下のプライベート・スタジオ“Studio GO and NOKKO”で行われました。同スタジオの核となるのは32フェーダーのICON D-Controlシステムで、エンジンはPro Tools|HD 3 Accel、ソフトウェアは最新のPro Tools 9が使用されています。
「先日、コンピューターを最新のMac Proに入れ替えたのと同時に、Pro Tools SoftwareもVersion 9にアップグレードしました。ICONで使用する上では、それほど大きな進化があるわけではないんですが、動作はPro Tools 8と比べて確実に速くなっている印象ですね。」(HOTODA氏)
レコーディングされたセッション・ファイルはICONでオープンされ、ミックス作業に入る前に細やかな編集が施されました。
「この段階で行ったのは、主にピッチの補正作業ですね。ボーカルの本当に気になった部分だけ、Antares Auto-Tuneを使用して補正しました。これはいつものプロダクションでやっているのと同じやり方です。それと楽器に関してはミス・ノートが3〜4箇所気になったので、それは切り貼りによって直していますね。実は今回、ライブ当日のサウンド・チェックとリハーサルの段階から、Pro Toolsを回しっぱなしにしたんですよ。だから正しいノートは、リハーサルを収録したファイルから引っ張ってきたんです(笑)。ミス・ノートを後日弾き直してもらうのは何か嫌な感じがしますけど、当日の直前の演奏なら問題ないじゃないですか。こんなことができるのも、VENUEとPro Toolsを使用したライブ・レコーディングならではですよね」(HOTODA氏)
ライブ・テイクのミックスは、基本的にはいつものプロダクションと変わらないというHOTODA氏ですが、バランスを取る上での軸となるのは、ステレオ収録されたアンビエンスであると語ります。
「ライブ・テイクのミックスを行う際は、一番最初にアンビエンスのレベルを決めます。その上で、各楽器の音を持ち上げていく。これは昔から行っている手法ですね。ですから、アンビエンス・マイクにかなり音量が入っている楽器のフェーダーは低めになりますし、カフーンなどはアンビエンスに入っている音だけで十分だったので、単独のトラックは使いませんでした」(HOTODA氏)
ミックスではオートメーションが細かく書き込まれ、プラグイン・エフェクトも多用されました。特に活躍したのがWavesのプラグイン群で、“Studio GO and NOKKO”のICONには、Mercury BundleとSSL 4000 Collectionがインストールされ、100以上のプラグインが使用可能になっています。
「最近、新しいプラグインを積極的に使おうとしていて、今回、斉藤有太さんの電子ピアノにはWaves Maserati HMXを使用しました。それまで使ったことがなかったんですが、先日来日したトニー・マセラティのセミナーで、彼自身が紹介していて興味を持ったんですよ。このプラグインは“Bounce”というモードで使うことによって、ディレイとリバーブが上手くブレンドされた、なかなか良い響きを付加することができますね。キーボーディストって、ステージ上にコンパクトなミキサーを置いて自分の音源をミックスし、リバーブとかディレイをかけてからPAに送るじゃないですか。その感じをこのMaserati HMXでシミュレートしてみたんです。マセラティがセミナーでも説明していたとおり、このプラグインを使うにあたってはSIZEというパラメーターが肝ですね。これによって響きだけでなく、倍音成分も変化しますから。そしてMaserati HMXの後段では、McDSP 4030 Retro Compressorを使用して音を整えています。McDSP Retro Packは、4020 Retro EQや4040 Retro Limiterも悪くないんですけど、この4030 Retro Compressorは飛び抜けて良く出来ていますね。音が凄く太い。一体どんな機材をモデリングしているのか気になったので、現在McDSPに問い合わせているんですよ(笑)」(HOTODA氏)
バンド・マスターの鳥山雄司氏が奏でるアコースティック・ギターには、Waves PuigTec EQP-1Aと同 CLA-76 Blackyがインサートされました。両方とも実機を知り尽くしているHOTODA氏ですが、この2つのプラグインはよくシミュレートされていると語ります。
「鳥山さんは、アウトボードやコンパクト・エフェクターなどを多用して、自分の音をしっかり作られる方なんですよ。ですから僕の方では出来上がった音を少しコントロールするだけですね。そういう場合は、PuigTec EQP-1Aがいいんです。EQのカーブがブロードで、クリティカルな音ではないですから。オリジナルのEQP-1Aはパッシブ回路なので、どこかを持ち上げたらどこかが差し引かれるようなユニークなカーブを作るんですけど、PuigTec EQP-1Aはその感じがよくシミュレートされていますね。今回は上も下も少し持ち上げてから要らない部分をカットするという使い方をしています。例えば、下は100Hz以下はカットしていますね。方向としては、ギターのボディ、つまり銅鳴りを強調する感じ。もっと言えば、マイクの位置を少しホール側に寄せる感じですね。こういうことをやるには、ポイントを正確に狙えるプラグインの方がいいんです。
次のCLA-76 Blackyでは、音にパンチを加えています。ボワーンというサスティーンの部分を強調させることで、ベースの音とクロスオーバーさせているんです。楽音を出している人が3人しかいないので、ギターの帯域とベースの帯域をクロスオーバーさせることで、全体の音圧を稼いでいるんですよ。こういった処理を行うことで、会場の大きさも強調できます」(HOTODA氏)
山内薫氏のウッド・ベースには、Waves CLA-2A、同 Renaissance Bassという2つのプラグインが順にインサートされました。これらの中でもHOTODA氏は、Renaissance Bassで得られるユニークな効果を高く評価しています。
「頭にインサートしたCLA-2Aで、一番大切な“ノートの音”を引き出しているんです。あらかじめ“ノートの音”を引き出しておけば、その後のEQにかかる負担が少なくて済みますから。
Renaissance Bassは最近気に入っているもののひとつで、なかなか新しい効果が得られるプラグインですね。このプラグインをインサートすることで、欲しい周波数帯域をEQせずに持ち上げることができるんですよ。これまでベースは、50〜60Hz辺りの好きな周波数帯域をEQで持ち上げてからダイナミクスを通して音を作っていくというのが主なやり方でしたが、最近多くなっているソフトウェア音源のベースは、こういった処理を行う前にEQで不要な帯域をカットしなければならないんですよ。しかしカットする方向でEQを使用すると、どうしても原音が損なわれてしまう。そんなときにRenaissance Bassを使用すれば、下の周波数帯域を上手くコントロールしてくれるので、EQせずに任意の帯域を持ち上げることができるんです。例えば今回は80Hz辺りを持ち上げているんですが、こんなに簡単に低域を処理できるプラグインはこれまで無かったですね」(HOTODA氏)
NOKKOのボーカルは、Waves CLA-76 BlackyとMcDSP Channel Gで処理され、2種類のリミッターを使ってダイナミクスを丁寧にコントロールされています。藤井珠緒氏のパーカッション・トラックにはWaves SSL G-Channelがインサートされ、AUXトラックではReVibe、DigiRack Mod Delay IIといったプラグインが使用されました。そしてマスター・トラックで使用された唯一のプラグインがWaves L3-16 Multimaximizerで、これも最近気に入っているプラグインであるとHOTODA氏は語ります。
「これまでマスター・トラックで使用するファースト・チョイスのプラグインはMcDSP ML4000だったんですが、試しにL3-16 Multimaximizerを使ってみたらとても良かったんですよ。凄く使うのが難しいプラグインなんですが、リリース・キャラクターとセパレーションのプリセットがたくさん用意されているのがいい。そういったパラメーターを使うことで、自分が想い描いているサウンドに近づけることができるんです。ちなみに僕はマスター・トラックではEQプラグインは使いません。やはり個々の素材の位相のズレが気になりますから」(HOTODA氏)
ミックス作業完了後は、マスター・トラックの出力を別のオーディオ・トラックにレコーディングする形でファイナル・テイクを作成。この際、Trillium Lane Labs TL MasterMeterを使用して、オーバー・サンプリング時のクリップが監視されます。
「今回は最終的に、完全なミックス、音楽だけのミックス、そしてアンビエンスだけのミックスという3種類のファイルを作成して納品しました。というのも、最近はMAでもPro Toolsが使用されているので、放送局側の判断で音楽と歓声とのバランスを取れるようにしておいたんですよ。MAする際に、映像に合わせて歌をもっと聴かせたいとか、歓声を上げたいとか、そういう欲求が出てくると思うんですよね。これは凄く良いアイディアだと思います。
ライブ・テイクのミックスを手がけるのは1〜2年ぶりだったんですが、なかなかおもしろかったですね。鳥山雄司さんの観客を意識したアレンジもさすがですし、良い感じに仕上げられたと思っています。今のところ作品として発表する予定はないので、ぜひドキュメンタリーをご覧になっていただきたいですね」(HOTODA氏)
NOKKO オフィシャルWebサイト
GOH HOTODA オフィシャルWebサイト
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