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 〜エンジニア杉山勇司氏が語る繊細で芳醇なアコースティック・サウンドの秘密〜

 

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Contents:

 


イントロダクション

LUNA SEAのヴォーカリスト、河村 隆一のソロ・アルバム『Magic Hour』は、稀代のヴォーカリストとして、新境地を開拓し進化し続ける意欲作です。

『Magic Hour』で目指したサウンドは、統一感のあるアコースティックなバンド・サウンド。その音像は、制作開始の時点でアーティスト・河村 隆一さんの頭の中に、しっかりとイメージされていました。

そして、このアルバムのために集った一流のミュージシャン達の演奏によって生み出された耽美なアコースティック・バンド・サウンドと表情豊かで存在感のある河村さんのヴォーカル・サウンドが、エンジニア・杉山 勇司氏の卓越したレコーディング/ミキシング・テクニックによって絶妙にブレンドされ、アーティストが描いたイメージは、より魅力的な形で具現化されていきます。

そんな魔法のような瞬間の積み重ねで完成した河村 隆一さんのニュー・アルバム『Magic Hour』。そのサウンドの秘密を、杉山さんに語っていただきましょう。


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杉山 勇司(すぎやま ゆうじ)氏

1964年生まれ、大阪出身。1988年、SRエンジニアからキャリアをスタート。くじら、原マスミ、近田春夫&ビブラストーン、東京スカパラダイスオーケストラなどを担当。その後レコーディング・エンジニア、サウンド・プロデューサーとして多数のアーティストを手がける。主な担当アーティストは、ソフト・バレエ、ナーヴ・カッツェ、東京スカパラダイスオーケストラ、Schaft、Raymond Watts、Pizzicato Five、藤原ヒロシ、UA、NIGO、Dub Master X、X JAPAN、L’Arc~en~Ciel、44 Magnum、LUNA SEA、Jungle Smile、Super Soul Sonics、広瀬香美、Core of Soul、斎藤蘭、cloudchair、Cube Juice、櫻井敦司、School Girl ’69、dropz、睡蓮、河村隆一など。 また、1995年にはLogik Freaks名義で、アルバム『Temptations of Logik Freaks』(ビクター)をリリース


『Magic Hour』サウンド・コンセプトとプリ・プロダクション

〜アルバム・サウンドの方向性を決めるためのプロセスの確認~

杉山さんが、河村さんの作品のミックスを手がけるのは、2013年の『Life』、2014年の『Concept RRR never fear』に続き3作目になると思いますが、今回はこれまでとはサウンドの傾向が異なりますね?

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杉山氏「はい、今回の作品を制作するに際しては、すでに当初から河村君の頭の中に、しっかりとイメージができていて、かなり具体的にどういったサウンドを目指していきたいかという説明がありました。一言で言うと、アコースティック・サウンドということになると思うのですが、大人の落ち着いた雰囲気を醸し出しつつ、ラウンジで演奏しているようなバンドとしての一体感、そして一つのコンサートのようなサウンドの統一感が欲しいということでした。

これまでのアルバムでは、ミックスを中心にやらせてもらっていたのですが、そのコンセプトを聞いて、自分の方から、今回はミックスだけでなく、レコーディングからやらせてもらえないだろうかという提案をしたんです。その方が、サウンドに一貫性を持たせられると思ったからなのですが、幸い河村君も賛同してくれたので、今回は彼のプライベート・スタジオでのレコーディングから携わっています。」

 

レコーディング前のプリプロ作業(デモ曲制作)はどのように行われたのでしょうか?

杉山氏「実際には、プリプロ作業自体には立ち会っていないのですが、レコーディング開始時点では、Pro Toolsのセッション・ファイルでかなり完成度の高いデモが出来上がっていましたね。その時点では、Xpand等のバーチャル・インストゥルメントも使われていて、フレーズも打ち込まれ、きちんとアレンジされており、ヴォーカルもまだ歌詞のない状態ではありますが「ラララ」で、レコーディングされていました。

プリプロで作られた、きっちりとしたガイドがあったおかげで、曲のイメージを事前に把握できたので、レコーディングにも戸惑うこともなくスムースに入ることができたと思います。」

 

プリプロで使われた素材も本テイクには収められているのでしょうか?

杉山氏「いえ、今回は全て”生”のサウンドで録り直されていますよ。打ち込みは一音もないはずです。」

 

レコーディングでは、そのプリプロ素材をガイドに、一曲ずつ完成させていく形だったのでしょうか?

杉山氏「今回は、プリプロ素材を元に、まず河村君のプライベート・スタジオで各楽器の演奏をPro Toolsでレコーディングし、そこでラフミックスをした後、そのセッション・ファイルを自分のスタジオに持ち帰って本格的にミックスする形を取っています。

そのバックの演奏のミックスをしている間に、河村君がどんどん歌入れをしていって、そのデータをサーバー経由で受け取って、セッションに取り込み、最終的なミックス・バランスを取っていきました。そして、その結果を今度は、こちらからwavファイルで送り、本人にチェックしてもらうという方法で仕上げています。

凄く印象的だったのが、ドラムとかを録り始めている、かなりレコーディング初期の段階で、河村君の方がもうアルバムの曲順とかを決めて始めていて、”杉山さん、僕もこの順番で歌入れしていくから、ミックスもこの順番でやってもらえます?”って要望があったことです。そういった事からも、アルバム自体に一貫性を持たせるということを、いかに重視していたかが理解できたので、レコーディングやミックスでも、それを凄く心がけて音を創っています。」

では、次に河村さんのプライベート・スタジオでのレコーディングの様子を伺いましょう!

 

『Magic Hour』サウンド解説「レコーディング編」

〜プライベート・スタジオで行う本格バンド録音のノウハウ~

『Magic Hour』のレコーディングは、全て河村さんのプライベート・スタジオにて行われました。

 

レコーディン時のPro Toolsのセッション・フォーマットは、どのような設定だったのでしょうか?

杉山氏「32bit Float/88.2kHZです。そのフォーマットのままミックスまでやっています。」

 

レコーディングは、バンドで同時に演奏してというスタイルだったのでしょうか?

杉山氏「ミュージシャンが素晴らしかったので、作品を聴くと、そういう風に聴こえるとは思うのですが、実は違うんです。今回は、全て別々にレコーディングしていて、基本は、デモで作られたパートを、それぞれの演奏で差し替えていく形がとられています。それぞれの楽器のサウンドに関しては、全曲を通して統一感がでるよう、レコーディング開始の時点で、かなりこだわって音決めはしています。」

 

レコーディングでの苦労にはどのようなものがあったのでしょうか?

杉山氏「いえ、何も苦労していないというか、とてもスムースでしたよ。ミュージシャンが皆、うまい人ばかりだったので、ダイナミクスのコントロールとかも演奏者側できちんとやってもらえたし、それに河村君自身が、各楽器に対して、どういうサウンドが欲しいという、しっかりとしたコンセプトがあったので、例えば、マイクの選定等も、幾つかのパターンを提示すると、本人がその中から、 自分のイメージにあったサウンドのする方を選択してくれたりしていました。自分は河村君の”イメージはこんな音”という言葉を聞くためだけに、そこにいるという感じでした。」

 

では、各パートの具体的なレコーディング方法や設定を聞いていきましょう。まず、ドラムからです。

杉山氏「ドラムのマイク・セッティングは、キックが2本、スネアが上下で2本、タム がそれぞれに立てていて合計2本、ハイハットで1本、それにトップで2本の合計9本です。」

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レコーディング時の音処理過程は、どのようになっているのでしょうか?

杉山氏「レコーディング時のシグナル・パスは、実は他も全て同じで、マイクの先はマイク・プリ、EQそしてコンプレッサーで、そのままPro ToolsのI/Oに直接入力しています。マイクやマイク・プリ等のアナログ機器は、ビンテージものも含めて、全てこのスタジオにあったものを使っています。」

 

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コンプやEQの設定は、どのようになっているのでしょうか?

杉山氏「極端なことはしていません。きちんと演奏できるミュージシャンばかりでしたので、録りの段階で無理な音創りをする必要は全くなかったです。一旦、マイクやマイク・プリのセッティングが決まったら、その演奏時の音色の特徴、演奏時のダイナミクスも、そのまま収めたかったので、録音レベルも余裕を持った形で設定していました。」

 

次にベース、そしてギターについてお伺いしましょう。

杉山氏「アコースティック・ベースもギターも基本、マイクは1本です。1本できちんと取れる位置にマイクをセットするというのが、エンジニアにとって、とても大事なスキルだと思っているんです。河村君も、以前から複数マイクを設置することに、例えば、その距離感が変わってしまうことでの音の変化といった部分で、少し疑問を持つこともあったようで、このやり方で意見が合いました。」

 

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エレクトリック・ギター/ベースも、アコースティック時と同じコンセプトでレコーディングされているのですね?

杉山氏「はい、エレキ・ギターやベースも、アンプに対してはマイク一本です。ベースは、マイクとあとラインでも同時に録っています。」

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アコースティック・ピアノやエレピのサウンドも非常に美しく、印象的です。

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杉山氏「ピアノも、このプライベート・スタジオに備え付けのもので、これまでのアルバムでも使用していますが、今回のアルバム・コンセプトに合わせて、もう一度、サウンドを見直してみようということで、録音の前に、その音決めに時間をとっています。

ブース自体、業務用スタジオのように広いわけではないので、限られた条件の中で、色々なマイク、そしてそのセッティングを試して、このサウンドになっています。

チェックには、河村君本人も立ち会ってくれて、色々試している際に、マイク・セッティングに関して、二人の意見がピッタリと同じになった瞬間があったんです。その方法で試したセッティングでこの音が出て、それでレコーディングしています。まさに理想のサウンドが生まれた瞬間で、”よし、このまま一気にピアノ録るぞ〜”という雰囲気になりました。」

 

エレピも「本物」が使われています。

杉山氏「最近はシンセ系でも良いエレピ・サウンドがあるので、当初は、それでも良いかという雰囲気だったのですが、とりあえず本物を試してみようということで、一度、レンタルをしたら、そちらの方が曲の雰囲気にあっていたので、そちらを選びました。これもマイク2本で、録っています。」

 

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アルバムには、ギター、ベース、ドラム、キーボードといった基本となるバンド・サウンドだけでなく、ホーンやストリングスといった、一般的にプライベート・スタジオの空間では録音が難しいとされるサウンドも含まれています。

杉山氏「ストリングス・セクションのレコーディングは、以前からこのスタジオでの独自の方法があって、今回もそれを踏襲しています。4パート各1名の合計4人で同時にレコーディングしていますが、スペースの関係で、それ以上の大編成は難しいので、オーバーダブをしていっています。マイクは、それぞれに一本ずつと、あとはアンビエンス用ですね。ストリングスに関しては、ミックス段階でスケール感を出すため、色々とサウンドに手を加えています。」

 

ホーン・セクションは、どのようにレコーディングされていったのでしょう?

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杉山氏「ホーン・セクションは、一人のプレイヤーがオーバーダブしています。以前にも一緒にお仕事をした事がある方だったので、楽器ごとにマイクを変えるとか、わかっていたため、あらかじめ3本くらいマイクを立てていて、そこから選んでもらう形でレコーディングしていきました。」

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幾つかの曲では、ハープの音も、非常に良いアクセントになっています。

杉山氏「これも打ち込みではなく、本物のハープです。ハープ奏者の方が実際に持ち込んでいます。ちょっと遠目にマイクを立てて、一応、ステレオで録ったのですが、実際には、ミックスの時にはモノにすることも多かったですね。」

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ミュージシャンが演奏をしながら、トラックを聴く際のキュー送りはどのように行ったのでしょうか?

杉山氏「そこはスタジオにあるSSLのアナログ・コンソールを使いました。コンソール自体のコンプ/EQは、レコーディングした素材そのものには使っていないですが、モニターとかキュー送りには、やり方に慣れているせいもあって、普通にアナログ・コンソールを使っています。」

 

レコーディング時のスタジオ・モニターは、何を使ったのでしょう?

杉山氏「元々スタジオにあったものではなく、今回はYamahaのMSP−7 Studioを持ち込んで使いました。レコーディング中は、ずっとこのスタジオに置きっ放しにして、これをリファレンス・モニターにしていました。」

河村さんのプライベート・スタジオで行われた、このレコーディングの機材やセッティングは、河村さんのヴォーカル録音に関するものも含め、アルバム「Magic Hour」のライナーノーツに詳しく記載されていますので、そちらも是非、ご参照ください。

 

『Magic Hour』サウンド解説「ミキシング編」

〜アーティストのアイディアを具現化するためのノウハウ~


河村さんのプライベート・スタジオでのレコーディング後、そのPro Toolsセッション・データは、杉山さんの自宅スタジオに移され、杉山さんが所有する
Pro Tools | HDXデジタル・オーディオ・ワークステーションと2台のHD I/O 16×16 Analogオーディオ・インターフェイスを使ってミキシング作業が行われました。

 

ミキシング作業の過程はどのようなものなのでしょうか?

杉山氏「持ち帰ったセッション・データを、自分のPro Tools | HDXで開き、各楽器の基本的な音決めをしていきます。具体的には、ドラム、ベース、ギターといった楽器毎に、アナログEQとコンプのシグナル・パスを通し、音を処理した後、それを再度、Pro Tools内にレコーディングしていくのです。」

 

それはかけ録りする形ですか?

杉山氏「はい、今回の作品に関しては、ヴォーカル以外は、全てそうしています。複数の外部EQやコンプが、2台のHD I/O 16×16(合計32chアナログ入出力)に接続されているので、8chまでは1パスで録音できるようになっています。」

 

レコーディングした素材に色付けをしていくということでしょうか?

杉山氏「ちょっと違います。レコーディングした素材自体も、ある程度の色付けはされていて、それをスタジオで皆が聴いて納得しているわけですから、それをミックスで極端に変える必要はないと思っています。

ただ、実際に作品として世に出る時には、色々な環境で聴かれることになるわけですから、スタジオで聴いた音のままでは適さないケースもあるのです。スタジオのような良いモニター環境ではないところ、例えば小さな音で聴いたりした時にでも、どれで聴いても、その音像イメージを損なわないようにする事が大事であり、自分としては、それがミキシング作業をする一番の目的だと思っています。

この作業も、その目的を達成するための一環で、音の形を変えるということが目的ではありません。勿論、アナログ・パスを何度か通ることでの音質の劣化がないようにということには、最大限配慮しながら作業しています。」

レコーディング時のベース・トラック(トラック番号10と11)と、EQやコンプ等のアナログ機器を通して、再度Pro Tools内に録り込まれたベース・トラック(トラック番号12と13)。波形的に見ても、極端なレベル操作は行われていないことが理解できます。

 

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どういった機材を使って、その作業は行われるのでしょうか?

杉山氏「EQは自作のチューブEQです。これが8ch分あって、ほとんどのものが通っています。コンプは、Telefunken U373などを通しているものもあります。」

 

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リレコーディングされた素材に対するリバーブやディレイも外部エフェクトですか?

杉山氏「はい、それらも2台のHD I/O 16×16に接続されていて、Pro Tools HDソフトウエアのAUXトラックにアサインされています。今回は、Lexicon 480、Quantec QRS、そしてKLARK TEKNIK DN780を使っています。DN780は、ほぼ全部の楽器に使っていますよ。」

 

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今回のサウンドは、比較的ドライなサウンドが特徴ですね?

杉山氏「そうですね、それも全部、河村君のイメージの中にあったサウンドで、ヴォーカルもクリアなドライな感じ、ドラムのサウンドも一音一音クッキリさせて、ストリングスは広がる感じで…….など、かなり具体的な要望があったので、ミックスではそれを形にしていきました。

ただ、ドライに聴こえるサウンドも、実際には完全にドライなものではなく、全ての素材にきちんと意味を持たせる形で、でも聴感上はドライに聴こえるようにして、リバーブやディレイもかかっています。そうすることでバンドの一体感を出すことができるんです。」

 

それはサウンド同士をなじませるということでしょうか?

杉山氏「簡単に言うと、そうなりますね。空気感を共有するイメージかな。」

 

その場合、リバーブのパラメーターは、どのような設定になるのでしょう?

杉山氏「今回は、ほぼ全曲同じ設定なんです。だから、今でもリコールできますよ(笑)深さは送り側で調整しています。」

 

それもやはりアルバムに一貫性を持たせるという目的のためということでしょうか?

杉山氏「そうですね。ミックスだけでなく、今回はレコーディングの時から、それを意識していました。例えば、ドラムも、通常だと一曲一曲、セットを変えたりといったこともやるのですが、今回は一度決まったセットで、全曲レコーディングしています。ですので、サウンド・メイクの部分での各機材の設定は、曲毎に大きく変更しているところはないのですが、演奏者側で曲調に応じて、ダビングする楽器を変えたり、ドラムだとチューニングを変えたり、後は演奏のニュアンスも曲毎に違ったりしていますので、もしアルバムを聴いて、それぞれの曲の雰囲気の違いを感じるとすれば、そちらのミュージシャン側の表現の要素によるものの方が大きいかもしれないですね。」

 

そういう意味では、1曲の目の「Wisteria -ふじ-」が全体のサウンドのリファレンスになったのでしょうか?

杉山氏「まさに、その通りで、一番最初にやった、この曲のミックスで、アルバム全体の方向性が見えた感じです。ですので、結果的には、この曲に一番時間がかったことになるのですが、それを河村君にも聴いてもらってOKが出た後は、そんなに悩む事なく作業をしていくことができました。」

 

ヴォーカルに関しては、アルバム最後に収められている「Twilight Time -その訪れ-」だけ、やや深めの、そして非常に美しいリバーブ・サウンドが聴けますね?

杉山氏「”この曲だけは特別だから”という河村君本人のこだわりで、そうしています。人生を振り返るようなイメージの曲なので、見える景色を違う感じにしたかったんだと思います。リバーブは、Lexicon 480とQuantec QRSを使っています。サビは、河村君が”16分音符のディレイをかけて”ってことで指定してくれたので、その設定でハードウエア・ディレイのSDD-3000をかけています。」

 

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「Twilight Time」のヴォーカル・トラック。

ヴァースとコーラス(サビ)の部分でトラックが分けられボリューム・トリム・オートメーションが個別に施されています。VCAフェーダー「RK VCA」では、ヴォーカル・グループ全体のバランスが取られます。各ヴォーカル・トラックは「Vocal Main Bus」を通してAUXトラック「Vocal Mix」に送られ、

そこから480、QRSの2つのリバーブにセンドされています。

手前の三本のフェーダーは、そのエフェクトセンドで、各リバーブへの送りの量も確認できます。

ディレイはSD-3000ですが、完成トラックではエフェクト・プリントされた状態で「SD3000D」というオーディオ・トラックに収められているため、このスクリーン上のセンド・フェーダーは「無効(インアクティブ)」状態となっています。

 

ヴォーカルへのディレイは、他の曲でもかけているのでしょうか?

杉山氏「はい、でもそれとわかるようなかけ方はしていません。他の曲は、AMSのS-DMXというハーモナイザーで少しディレイをかけ、後はルーム・リバーブを施していますが、聴いている印象はドライになるようにミックスしています。」

 

リムショットの音も凄く印象的ですね?

杉山氏「これも河村君の方から、リムショットの音を大きくしてほしい、なんならスネアよりも目立つくらいで…というリクエストがあったんです。スタジオでのラフミックスの段階で、Pro Toolsの中のボリューム・トリムを使って、色々と試して、このバランスに落ち着いたのですが、そのデータを最後のミックスまで維持しておけたので、凄く便利でしたね。」

 

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リムショット・サウンドが印象的なアルバム4曲目のバラッド「Chronicle -年代記-」のセッション・データ。

上から2トラック(トラック番号3と4)が、ラフミックスで使われたオリジナルのスネア・トラック。リムショットの部分(曲の前半部と中間部)のみボリューム・トリムでレベルが持ち上げられています。

本ミックスで使用されたセッション・データ上では、杉山さんによってアナログ機器を通して再レコーディングされたスネア・トラック(番号11と12)が使われるため、ここでは元のトラック全体が「無効」状態でグレイアウトしています。両方の波形を比べると、リムショットが結果としてどれくらい持ち上げたかが、はっきりとわかります。

エレピやハープの空間処理も、非常に印象的です。

 

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本物にこだわってレコーディングされたエレピとハープ・サウンドが収められた、アルバム10曲目の「Beautiful World -美しい世界-」のセッション・データ。こちらも2トラックのエレピが、1つのAUXトラックにまとめられ、そこからリバーブへと送られています。

次にパンチのあるブラス・サウンド・ミックスの一例です。

 

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軽快な4ビートのリズムに乗って、煌びやかに奏でられるブラス・サウンドが特徴的なアルバム3曲目の「Candle -炎-」。ここでは各セクションにコンプレッサー・プラグインであるBF-76が実行され、それをまとめたBrass Mixトラック上では、Nomad Factoryのテープ・シミュレーター・プラグインであるMagnetic IIが実行されています。

 

パート毎にサブグループを組んでAUX トラックが作られるケースが多いようですね?

杉山氏「はい、それは”HEAT(Harmonically Enhanced Algorithm Technology)”を有効に使うという意味でも役立っています。実は、今回のアルバムでのサウンドの最大の特徴は、”HEAT”の使い方にあったと思ってるんです。このアルバムでの”HEAT”は、サウンドの統一感を保ちながら、それぞれのパートが、その曲にとって最適な状態になるためのサウンドのニュアンスを調整していくのに役立っています。

”HEAT”を使っている人って、あまり聞かないのですが、使い方が難しい….使い方というか、かかり具合を調整しコントロールするのが難しいせいもあるんじゃないかと思うんです。“”HEAT”は、そのかかり具合が、そのトラックのレベルに応じてニュアンスが変わるのですが、自分の場合は、それぞれのオーディオ・トラックに”HEAT”を実行しつつ、その先にAUXトラックを設定することで、各オーディオ・トラック上で”HEAT”が生み出したニュアンスを損なわずにミックス・バランスをとるようにしているんです。ですので、オーディオ・トラックの方は、ボリューム・オートメーションは基本使わずに”HEAT”がちょうど良くなる形でレベルを設定し、ニュアンスの調整はボリューム・トリムで要所要所をいじるようしています。そして、そのデータがサブグループ・トラックとしてのAUXトラックへ送られて、そこで初めて全体バランスをとるためのレベル調整、つまりミックスをしているんです。

ここもうちょっと”HEAT”来て欲しいなと思った時には、オーディオ・トラックのレベルを上げ、全体のミックス・バランスをとるためAUX側を下げる、逆に効きすぎたなと思った時には、オーディオ・トラック側のレベルを下げ、Aux側でボリューム感が損なわれないようレベルをあげるといった事を行うのです。

”HEAT”がかかったアナログのニュアンスを持つコンソールの後ろに、さらに超高分解能なデジタル・コンソールがあるみたいなイメージですね。

”HEAT”は、うまく使いこなせば、凄くサウンドを豊かにできるツールです。自分は、この方法で”HEAT”を思ったように使いこなせるようになりました。」

 

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アルバム全曲で使用された「HEAT」設定の一例。

「HEAT」は、プラグイン・エフェクトとは異なり、そのセッションのオーディオ・トラック全体に実行され、Pro Toolsにアナログ・ライクなコンソールとしての「カラー」を加えます。操作するパラメーターは「ドライブ」と「トーン」の2つだけですが、杉山さんは不要なトラックではバイ・パスし、必要なトラックでは、全てポスト・フェーダーで実行し、ボリューム・レベルの調整で、その効果のニュアンスを調整しています。そして、それらのトラックは、パート毎にAUXサブグループ・トラックにまとめられ、曲全体の中でのレベル調整や外部機器およびプラグインでのエフェクトが施されます。

 

『アルバム・リード曲「Wisteria -ふじ-」でのミックス解析

アルバム1曲目に収められている「Wisteria-ふじ-」は、ピアノ、アコギ、ドラム、ベースの基本となるアコースティックなバンド・サウンドをバックに、主役のヴォーカルが切々と歌い上げ、サビの部分のストリングスが曲全体を盛り上げ、エンディングでは、女性ヴォーカルがセカンド・メロディーをなぞりながら静かに終わっていく、アルバム一曲目を飾るにふさわしい、シンプルでいながらも、豊かでドラマチックな要素も持ち合わせた素晴らしい曲です。

やすらぎ感のあるメロディーを持つヴァース部分とスケール感の大きなサビ部分のサウンドの対比が印象的なこの曲はまた、杉山さんによって一番最初にミックスされ、アルバムのサウンド全体のリファレンスともなった曲なのです。

では、この「Wisteria-ふじ-」の音創りを、それぞれのパート毎にPro Tools HDソフトウエアのセッション・ファイルを見ながら解説していただきましょう。

まず、最初にドラムからです。

 

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これはレコーディングを行った後、杉山さんのPro Tools | HDXで読み込まれ、アナログ機器を通して、再度、Pro Toolsに録り込まれるための準備が行われている状態のセッション・データの様子です。上の7トラック(トラック番号11-17、実際にはKickがもう1トラック、上に隠れています)が元のデータで、それらは杉山さん所有のアナログEQおよびコンプレッサー)を通り、トラック番号18-25に戻ってきます。

こちらは、上で説明したアナログ機器を通ってリレコーディングされたオーディオ・トラックです。各パートは、Pro Toolsの内部バスを通じて「Drum Mix」というAUXトラックにまとめられ、そこで幾つかのAAXプラグインが実行されています。

 

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杉山氏「ドラムに関しては、個別に音決めをしてPro Toolsに録り込んだ後、サブグループにまとめて、トータルでハードウエアEQを実行し、その後、2種類のコンプレッサー、Avid Fairchild 660とBF−2AをAAXプラグインでかけています。Farichild660は、ゲインを叩いた後、もどる感じが一番好きなので、気に入っています。BF−2Aの方は、キャラ付けという意味も兼ねて、ちょっとだけレベルを抑える感じですね。最後のSonnox Oxford Inflatorは、パンチを出すための音圧の調整という意味もありますが、どちらかというと高域が足される感じで使っています。」

次にベースとギターを見てみましょう。

 

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この曲はエレクトリック・ベースで演奏されており、マイク収録によるアンプ・サウンドとDIによるライン録りのサウンドが同時にレコーディングされています。この2つのオーディオ・トラックは、内部バスを通してAUXトラックにまとめられ、そこにハードウエアEQとBF-2A AAXプラグインが実行されています。アコースティック・ギターは、1マイクでレコーディングされ、そのトラック上で、直接BF-2A AAXプラグインが実行され、DN-780へ送られてリバーブ処理が施されています。

杉山氏「BF-2Aをシミュレーションしたプラグインは、他にもありますが、自分は、これが一番気に入っていますね。凄く良く出来ていますよ。」


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アコースティック・ピアノも、ドラムやベース同様にAuxトラックにサブグループとしてまとめられ、そこにNoveltech CharacterとBF-2AのAAXプラグインが実行されています。リバーブは、Lexicon 480とDN-780です。

杉山氏「Noveltechは、ピアノにちょっと明るさを加えて、存在感とか前にでる感じとかを調整するために使っています。RK Piano 1, 2, 3という3つのプリセットを作って保存してあるので、それを曲によって使い分けます。」

 

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この曲で1箇所だけ出てくるハープも、ピアノと同じ組み合わせのAAXプラグインが使用されています。

次にスケール感を増すためのミックスが施されたというストリング・セクションを見てみましょう。

 

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ストリングス・セクションは、4人(ヴァイオリン1、ヴァイオリン2、ビオラ、チェロ)で同時録音され、全員で1度オーバーダブされ、さらに追加でヴァイオリン・パートのみ2度オーバーダブされています。オーバーダブしたパート毎にAUXトラックにサブグループが組まれ、そこにMod Delayが実行されています。各AUXトラックは、さらに内部バスで送られ1つのStrings Mixトラックにアサインされます。そのストリングス全体に対して、480やQRSといったリバーブがかけられている他、AAXプラグインでもNoveltech CharacterやBA-2Aが実行されています。

杉山氏「ストリングスは、オーバーダビングしたトラック毎にAUXトラックにまとめてディレイをかけていますが、これによってストリングスの人数感を演出しています。座っている人が後ろというイメージですね。同じタイミングだとダブルになりすぎて不自然なので、ディレイ値を少しずつ変えて実行するというのがポイントです。」

この曲のエンディング・パートには女性ヴォーカルも加わっています。

 

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杉山氏「女性コーラスには、レコーディングの時に河村君のプライベート・スタジオにあるEMTのリバーブをかけたのですが、それが凄く良かったので、そのリバーブ音だけを別トラックに録って、実際のヴォーカル音とミックスしています。ですので、ここのサブグループ・トラックには、リバーブとかは使っていなくて、コンプレッサー・プラグインのBF-2Aだけを実行しています。」

では、いよいよ主役のメイン・ヴォーカルです。

 

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主役のヴォーカル・サウンドは、バックの演奏との兼ね合いで、細かなサウンドの調整が必要となるため、アナログ・パスで実行するエフェクトもエフェクト・プリントはせず、レコーディングしたトラックの状態のまま使用されます。

ヴォーカル・トラックは、内部バスを通してMain Vocal Busに送られ、その先のVocal Mixトラック上のインサートで、アナログEQやコンプが実行されます。ここでは、複数のアナログ機器のパスをインサートにアサインし、それを切り替えて、どちらが適切かを試した上で、採用となった方を”有効化”して使用しており、その後、さらにAAXプラグインのBF-2Aでサウンドが整えられます。ヴォーカル・サウンドは非常にドライな印象ですが、バンドとの一体感を出すため、S-DMXとDN780が隠し味的に使われています。

杉山氏「”HEAT”のドライブ具合を、ヴォーカル・トラック上のボリューム・レベルの上げ下げで調整するため、ここはいつでも変更できるようにオートメーション・データは書き込まれていません。その代わり、レベルの微調整は、ボリューム・トリムのオートメーションで実行されています。ただ、これはフレーズに合わせて、レベルのコントロールをしているのではなく、細かく書いているところは歯擦音のコントロールのためです。フレーズに合わせたダイナミクスは、波形を見てもてもわかるようにシンガーが凄くうまく表現できているのと、その際のコンプレッサーの設定でもフォローできるようにしています。」

曲の「主役」だけあって、非常に複雑で高度なシグナル・チェーンで処理されていますが、それぞれに深い意味を持って実行されています。もう一度、杉山さんに整理して説明してもらいましょう。

杉山氏「まずレコーディングされたヴォーカル・トラックには、BF-76コンプレッサー・プラグインが実行され、そこを通ってヴォーカルの存在感を表現するための”HEAT”にレベルが送られます。”HEAT”のドライブ具合は、ボリューム・レベルと、このコンプレッサーのアウトで調整し、そのデータが内部バスを通して、Vocal Mixトラックに送られます。このAUXトラックからリバーブへデータが送られ、信号そのものにはアナログEQ処理を施し、サウンドを整えるためのBF-2Fコンプレッサー・プラグインが実行されています。

つまり、ヴォーカルのレベルの調整は、オーディオ・トラック上のボリューム、ボリューム・トリム、コンプのアウト、Vocal Mixトラック上のボリューム・トリム、さらにはヴォーカル・トラック・グループ用のVCAフェーダー、そしてバックの演奏との最終バランスをとるためのVocal Masterトラック(マスター・フェーダー)でも実行できるようになっています。それぞれ、その後のプロセスがどう変化するか、ヴォーカル・フレーズのニュアンスがどう変わるか、全体とのバランスをどうするか等といった目的に応じて、どのパラメーターを操作するかを決めるのです。

当然、こういった事は通常のコンソールではできませんから、Pro Toolsミックスならではでしょうね。」

 

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ヴォーカル・トラック(トラック番号43)に設定された”HEAT”と、そのドライブ具合を調整する一つの手段でもあるコンプレッサー・プラグインのBF-76。驚くほど繊細な作業でニュアンスが微調整され、曲の主役であるヴォーカル・サウンドの存在感を際立たせています。

杉山氏「今まで”HEAT”を使う時は、ミックスの最後にかけてみて、うまくいくものだけオンにしていく感じ、ちょっと偶然に頼るというか”かけてみて良くなったら喜ぶ”というのが“HEAT“の立ち位置だったのですが、今回はこのやり方で繊細にコントロールしていける事がわかったので、ミックスの初めから使い、それでモニターしながら作業していきました。」

 

ミックス時のスタジオ・モニター・スピーカーは何を使ったのでしょうか?

杉山氏「河村君のスタジオにYamaha MSP-7 Studioを置きっぱなしにしていたこともあって、自宅ミックスの時は、MSP-5 Studioを使いました。」

最後に「Wisteria -ふじ-」で使われたセッション・ファイルの規模感を確認しましょう。
32bit Float/88.1kHzで制作された「Wisteria -ふじ-」のDSP使用状況です。杉山さんのPro Tools | HDXにはHDXカードが2枚搭載されていますが、この曲ではそのうちの1枚で全てのミキシングおよびプロセッシング・パワーが賄えています。CPUベースのプラグイン使用は少なかったにも関わらず、こうなったのはDSP共有できるタイプのAAX DSPプラグインが中心であったこともその一因でしょう。

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『Magic Hour』サウンド解説「マスタリング編」

〜表舞台に出るための最後の微調整~

杉山さんの手によってミックスされたデータは、リスナーの手元にCD音源として届けられるためのマスタリング処理が施されます。

「Magic Hour」のマスタリングは、ロンドンにあるマスタリング・スタジオ「Sound Master」のエンジニアKevin Metcalfe氏によって行われました。

Kevin氏は、QueenやUnderworld等、数多くの有名アーティストの作品のマスタリングも手がけています。

 

どういうきっかけでKevin氏に依頼することになったのでしょうか?

杉山氏「元々は20年位前に、お願いしたのがきっかけで、それ以降は自分がマスタリングまで責任持たせてもらえる場合は、いつも彼に依頼しています。サウンドが凄く気に入っていますし、マスタリングに対するスタンスが信頼できると思ったんです。」

 

マスタリングを依頼する際のファイルは、どのようなフォーマットなのでしょうか?

杉山氏「Pro Toolsのオンライン・バウンス機能でステレオ化したWAVファイルを送ります。ステレオミックスを皆んなでスタジオで聴くときは、CDをイメージして、マスター・フェーダーにレベル・マキシマイザーを実行し、少しレベルを持ち上げた状態で確認するのですが、マスタリング・スタジオに送るときには、それを外してLess-Levelというファイルを作り、それを基に作業してもらいます。それと一緒に、こちらでレベルを上げたものも、参考のために送ってはいます。」

 

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マスタリング前に試聴する際にマスター・トラックで実行されているSonnox Oxford InflatorとMcDSPのML4000。マスター・フェーダーの上にあるトラック(無効状態に設定)は、レコーディング時に行われたラフ・ミックス・データで、ミックスしながら元のイメージを確認する際等に使用されていたそうです。

 

マスタリングの方針はどのようなものだったのでしょうか?

杉山氏「今回、ミックス終わった後に、皆で試聴した際、河村君の方からも、”このままのイメージで出したいね”という要望があって、それは自分とも意見があっていたのですが、基本的にマスタリングで大きくサウンドをいじるってことは望んでいませんでした。例えは難しいですが、メイキャップ自体は、もう終わっているわけだから、そこから眉を太くしたり細くしたりみたいなことは、やって欲しいとは思っていなくて、最後にフェイスパウダーだけをはたいてもらって皆なの前に出られるようにしてもらう…..作品として世に出すための最後の仕上げをしてもらうといった事を期待しています。」

 

今回の仕上がりは期待通りのものだったのでしょうか?

杉山氏「はい、Kevinもその辺は良くわかってくれているので、ミックスの時にスタジオで確認した音像イメージを、そのまま反映した仕上がりになっていると思います。河村君には、独自の確認の仕方があって、まずスタジオで聴き、自分のiPodで聴き、そして車で聴くといった事をやっているようで、今回もその方法でチェックしていると思うのですが満足してくれていると思います。」

 

その他CD化にあたって、こだわったポイントはありますか?

杉山氏「今回は、アルバム全体の統一感が大事というコンセプトがはっきりしていたので、曲間の長さにもこだわりました。

日本でステレオ・ミックス・ファイルを作った後、それを曲順に並べて見て、それぞれの曲間もきっちり決めた形でPro Toolsのセッション・ファイル上でトラックに並べていたんです。そこにマスタリングして、戻ってきたファイルを並べて、きちんと曲間の長さが同じになるように調整し、それぞれのファイル間がどれくらい必要かを確認した上で、CD化するためのDDPフォーマットにするためのPQを打つ時に、その数値を細く指示してプレスしてもらいました。」

 

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曲順ごとに並べられた、オリジナル・ミックスのステレオ・ファイル(上)とマスタリング後のステレオ・ファイル(下)。最初に決めた曲間の長さと同じになるようにマスタリング後のファイルが並べられています。

 

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4曲目「Chronicle -年代記-」エンディング部と5曲目「Terroir -恵み-」の冒頭部。オリジナル・ミックス(上)とマスタリング・データ(下)での波形レベルでの違いは、ほとんど生じていない事から過度なレベル調整は行われていない事がわかる。また、「Chronicle -年代記-」のマスタリングされたオーディオ・ファイルの長さが微妙に異なっているため、その分、「Terroir -恵み-」を後ろにずらして、元々決めていた曲間長になるように調整しています。この調整した数値を、DDPデータ作成時の曲間を決める際に指定してPQコードを打ちこんでいるのです。

 

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最後に杉山さんに今回の作品のサウンド面での聴きどころをお聞きしました。

杉山氏「そうですね、このアルバムでは、とにかく”サウンドの一体感”というのが大きなテーマでした。そういった方向性が最初から決まっていたので、レコーディングやミックスを通して、一貫したサウンド・メイクができたと思います。”HEAT”を暖かみを加える際の微調整を行った上、ミックスの最初から使用したのも、その他のエフェクトで設定を決めていく際も、同じ意味、同じ目的で行っていったと言って良いと思います。」

 

インタビュー/構成:赤坂 稔