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レッド・ホット・チリ・ペッパーズのワールド・ツアー最初の行程を終えたサリー・サリバン氏に、Rat Sound の提供による新しい Avid VENUE | S6L システムを使ったバンドのミキシングについて聞きました。

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今までご利用していた Venue Profiles から S6L に移行するプロセスはどのようなものでしたか?

音響業者の、Eighth Day Sound から借りたことがあるんです。アブダビでリアーナと単発のライブを行い、ベックとも何度かライブを行いました。リハーサルのときは、トラックに積んで仕事場に持って行っていました。すでに Profile を持ってましたが、Stage 64 のラックで録音する必要があったので S6L への入力を分けていました。私がやったことは、トラックを保存して、終演後に家に持ち帰ってショーに関する作業をすることでした。

最大の課題は、どのプラグインを使うかということでした。Waves がお気に入りなんですが、TDM (Profile のフォーマット) はとても使いやすく、非常にうまく統合されていたので、外付けの SoundGrid MultiRack のオプションは使いたくありませんでした。スナップショットの作成や遅延補正の計算など、Profile と比べて余計な手間がかかってしまうので、デスクでコントロールできないという仕様は好みではありません。そこで、AAX DSP バンドルをすべて購入し、McDSP、Brainworx、Sonnox で実現できることを調べました。要はどうやって Waves を使わずに済ませるかを考えたんです。Waves をあまりに愛用していただけに、現在のルーティングには関心がなかったんです。

これが最大の課題でした。もちろん、ボタンがどこにあって、どうやって使うのかという体が覚えているようなことは別です。新しいコンソールに乗り換えて、「使い方がわからない」なんてことにならないように、熟練する必要がありました。Eighth Day は親切にも私に貸してくれて、是非試して欲しいと言ってくれたんです。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのツアーの依頼を受けた後、直近のライブ音源を聞かせて欲しいと頼んだところ、4 回分のデータが送られてきました。バンドのエンジニアであるジェイソン・ゴスマン (ウェブサイトで公開するライブ音源の録音とポスト・ミックス担当) は、ツアーの最終日程を Profile で録音していました。

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RHCP のライブに向けた調整するために、Genelec 8040 と 7070 サブ、そしてコンソールを使って、1ヶ月ほどスタジオにこもったんです。バンドの完全な演奏を初めて聴いたのは、オーディエンスのいる本番でした。初日にはリズムセクションのサウンド・チェックがあったので、準備をしておく必要があったのです。このコンソールと Pro Tools のおかげで、自宅のスタジオでもパフォーマンスのリハーサルができたのです。

自宅で数ヶ月間、コンソールの前に座っていたことで、レイアウト、内部プラグインの操作方法、ファイン/コンフィグ/アンドゥ/レイヤー・ボタンの位置など、基本的な感覚をつかむには十分でした。

ベックとリアーナで使用した Profile のショー・ファイルやさまざまなスナップショットを活用しました。チリ・ペッパーズは、これまでアナログ・ボードでミックスされていましたが、今回のツアーではどのようなアプローチしましたか?

バンドはこれまでアナログのコンソールでミックスされてきましたが、特にその影響はありませんでしたね。ルーティング機能、スナップショット、バーチャル・サウンドチェック、ダイナミクスなど、無限の可能性を秘めたアーキテクチャが提供するオプションのおかげで、…デジタルではさらに良い結果を得ることができると思います。

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ライブの後すぐに、録音内容を振り返り、すべての入力設定を平均化しました。数日間かけて作業の平均化ができるまでは、スナップショットを作りません。そして、スタジオでの作業と同じように、それぞれの曲を聴いて作業を重ねていきます。アルバムバージョンの曲との聞き比べもします。ファンの皆さんはそっちの方を聞き込んでいるはずなので、その音を再現するように努めます。コンサート PA の大音響でね!

では、音源を入手して準備作業をする他に、実際に本番のリハーサルは行いましたか?それともそのままツアーに出たのでしょうか?

いや、そのまま本番です。本番が始まるまでは、バンドの全員が揃った状態での演奏を聞いたことがありませんでした。ハウスのライトを消灯して、そのまま本番です。私の普段のやり方とは違いますが、バンドはライブの録音を送ってくれていたので、Virtual Soundcheck の機能のおかげで問題なくいけました。実際に関連する音源や素材、音楽的な感覚を理解した上で本番に臨んでいます。Pro Tools のセッションだけを使って作業した方法では、Stage Rack は使用せず、プリアンプは適当にゼロレベルに設定していました。このシステムにプリアンプを接続したことがなかったんです。なので Stage Rack に初めて接続したときは、それぞれのゲイン調整をプリアンプに適用するか、という確認が表示されました。プリアンプについてはそんな程度だったんです。そこで、スタッフとの最初のラインチェックでは、入力ゲインの調整に集中しました。入手した音源を思い出しながら、それと同じ入力レベルに設定することに専念しました。

Stage 64 を装着することで、全体的にゲインが下がってしまうため、ゲインの再設定が必要になる点が少し不安でした。コンソール上のメーターのおかげで、記憶を頼りに問題なくにセットアップできましたし、ゲインを調整した後はそれほど大きな誤差は発生しませんでした。

かなりうまくいきましたね。本番のリハーサルでやるようなことを、自宅で自分一人でできたのです。バンドが帰った後、私はトラックの作業に取りかかるのですが、これを自宅で 8040 とサブスピーカーを使ってできました。

今はこれが基本ルーティンです。レコーディングと、Virtual Soundcheck だけです。考えてみてください。スタジオに入って 5 分間曲を聴いて、「はい、ミックス完了」とはいかないでしょう。何日も、何週間も、あるいは何ヶ月もかけて作業をします。ライブ・サウンドの場合はもっと大変でしたね。それも Virtual Soundcheck が登場するまでの話です。これはライブ・サウンドの歴史上、最大の変革をもたらした出来事でしょうね。本当に劇的な変化です。

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実際にツアーに参加してみて、マイク交換などの調整はしましたか?

はい、マイクはいくつか変更しましたね。ほとんどドラムキットのマイクです。スネアとタムのマイクには Shure 98 が使われていましたが、必ずしもこのマイクではなくてもいいと判断しました。音響的には実際のドラムの音と、マイクを通したドラムの音はかなり変わってしまっていたのです。そこで、スネアのトップマイクを 98 ではなく、Heil PR30 に変更し、ボトムマイクは SM57 にしました。デイブの考え方としては、スネアのマイクにハイハットの音がかぶるのであれば、ハイハットにはマイクを付けないというシンプルなものでした。私はそれよりも、ハイハットとかぶらないマイクを探して、バンドで今まで使ったことのないハイハット専用のマイクでを録音したいと考えます。今回選んだハイハット用のマイクは、Heil Handi Pro Plus です。

タムのマイクは Audio Technica AE3000 に交換しました。ギターについては、私の意向と共通するものがすでに使われていたので、変更していません。ベーシストのフリーには、ベース DI プリとベース DI ポストを用意しました。ポストは彼が使用しているエフェクト (オーバードライブとワウ ペダル) の後に接続しています。このプリとポストを挟むだけで、素晴しいベースサウンドが得られます。Shure 98 マイクは、使わないので変更していません。

ジェイソン・ゴスマンは、Profile で配信とレコーディングのミックスを担当していたと聞いています。S6L への移行は 2 人で決めたのでしょうか、それともどのように決めたのでしょうか?

ジェイソンが聞いてきたんです。「S6L を使ってるの?」「S6L に乗り換えたいと思ってたんだ」ってね。彼の分もシステム移行するのは問題なかったので、プロダクション・マネージャーも快諾してくれました。

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彼はレコーディングに、S6L の Ethernet AVB Pro Tools や HD MADI インターフェース を使っているのですか?

Stage 64 の HD MADI ですね。

 

彼のワークフローはどうなっていますか?ポスト・プロダクションも行っているのでしょうか、それともその場ですべてをミックスしているのでしょうか?

私たちがセッティングや配線のチェックをしている間、彼は一日中何らかの作業をしていますね。どこかの部屋にいたと思ったら、ステージの傍らにるって感じです。彼は McIntosh のアンプと Proac のスタジオモニターを使って、スタジオ・スタイルで全ての作業を行っています。それをドラマーのチャドに渡して承認してもらうんです。承認されると、送信してアップロードされます。バンドのウェブサイトでは MP3 で販売されています。先日、彼とこんな話をしました。

Profile の古い Pro Tools で録音した音源を今と比較して、進歩したと思うか、使い続けたいと思うか、どう思うか感想を聞いたんです。彼の答えは、良くなっているというものでした。特にプリアンプはかつてのバージョンよりも良くなっていると言うんです。

別に Profiles が悪かったと言っているわけではなく、S6L の方が明らかに優れています。そこが一番の違いだと思います。Avid は、入力の品質に関しては、確実に進化を遂げています。ソフトウェアに関しては、AVB と新しいメディア・タブによる多少の追加はあるものの、これまでとほぼ変わりません。そしてハードウェアが一番の違いでしょうね。それはジェイソンも同意しています。そして満足しています。彼は 24D を使っています。私は 32D を使用していますが、機能が十分かどうか彼に聞いてみたんです。完璧だっていう答えでした。

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ジェイソンはバンドの公式音源を録音していますが、あなたはレコーディングでボードをどのように使いましたか?

Virtual Soundcheck や PA の調整をして、ジェイソンをバックアップしました。

サードパーティの AAX DSP プラグインを探すアプローチについて改めて聞かせて欲しいのですが、どのように進めていったのでしょうか?まだ Waves をいくつか使用していますよね。必要なものをどのように見極め、どこで代替品を見つけるのですか?

Waves は外付けなので使いたくないと思っていたものの、私にとっては離れられない存在であることも事実です。Waves は素晴らしいプラグインをたくさん作っていますから、他で代替できるものが見つからないんです。C6 は、私にとって欠かすことのできない存在となった最初のプラグインです。C6 は、Avid Pro Multiband や [McDSP] AE400/ML4000 と比べても、ちょっと変わったマルチバンド/ダイナミック EQ です。同類ではあるものの、単純に比較できるものではありません。Waves は C6 をリリースしたことで、ひとつの偉業を成し遂げたと言っていいでしょう。

私としては、無人島に持って行きたいプラグインの一つです。何であっても、C6 があれば何とかなるというほどの存在です。キックドラムが鳴ったときにだけローエンドをダイナミックにブーストしたい場合にも対応でき、さらにゲートを使ってフィードバックを抑える必要がありません。ブーストするタイミングをコントロールできるのです。

これはスネアの場合でも同様です。もう少し明るくしたい場合は、チャンネル EQ で調整しますが、そうするとハイハットとかぶってしまします。ドラムが叩かれたタイミングでこれを動的に処理させることで、そのチャンネルからハイハットの音は聞こえなくなります。

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ヴォーカルの入力についても、C6 の力が大いに発揮されます。たとえば、歌手がマイクを手に持っているとします。マイクのグリル辺りを握って、口がマイクと限りなく近い位置にありますが、その 1 秒後、マイクを口から 15 インチ (約 38 cm) も離してしまいます。リアルタイムでこの動きに追いつく方法はありません。ワイドバンド・コンプレッサーは、レベルの変化には対応できますが、音色の変化には対応できません。

C6 であれば、問題が発生した場合にのみ問題に焦点を当てることができます。C6 はマルチバンドに対応しているので、4 つのワイド・フィルターだけでなく、2 つのナロー・フィルターも搭載しています。そのため特定の部分だけを圧縮することもできるんです。音声の了解度を維持するにはとても便利です。たとえば建物の音響が悪く、演者の特性をを活かすことが難しい環境だとします。部屋の音響特性のせいで了解度が低下することと、コンプレッサーのアタックを過度に深く設定したり、過剰に圧縮したりして、質を低下させることとは別のことです。そういう時こそ、C6 が頼りになります。むしろ圧縮自体は控えめにして、細かい処理をしたり、動的に EQ をかけたりする箇所を具体的に指定できます。ただのコンプレッサーではありません。この両方の機能を持っているのです。

では C6 の他に何かオンボードのプラグインを使用しています?お気に入りがあれば教えてください。

コンソールのビルトイン・チャンネル・ダイナミクスですね。(笑) 正直に言うと、圧縮処理にプラグインは要らないんじゃないかと自問しました。たとえばあるストックを [Avid Channel Strip] で聴くと、素晴らしい音を聞かせてくれます。私のプラグイン・ラックを見てもらうとわかりますが、90% は主にサチュレーション系のプラグイン [Cranesong Phoenix] で、他には McDSP Ultimate Channel Strips をたくさん使っており、、圧縮処理をあまりしていません。これはサチュレーションとビンテージ EQ を再現しているもので、実にシンプルなものです。高域と低域は普通のシェルビング・フィルターで、中域はピーキング・フィルターです。Q をタイトに設定してもかなり広く効きます。私はアナログ・ボードでミキシングをして育ってきたので、EQ がどのようなものか知らなかったのですが、EQ とは目で確認するものではなく、EQ は耳で判断するものなのだとわかりました。また、McDSP Ultimate Channel strip など、私が使用しているいくつかの製品では EQ を視覚的に表示しません。

たとえば、Avid の Facebook ページに投稿された私の S6L の写真に、誰かが「ハイパス・フィルターがたくさんかかってますね」とコメントしてますね。ポジティブなコメントでもネガティブなコメントでも、まずは見た目で判断していることがわかります。人は、何をやっているかについては、視覚的な面での関心を払う時間が多く、耳から入ってくる情報にはさほど注意を払わない傾向があります。我々は視覚的な何かを提示しているのではなく、サウンドをミックスしているのです。見た目が重要なわけではありません。

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私が使用しているプラグインのほとんどは、視覚的な表示がなく、すべてノブを使って操作するものです。決して外見で物事を判断してはいけません。私の画面に表示されたチャンネルはフラットに設定されているように見えるかもしれませんが、表示していない他の画面でどのような設定をしているかは見えませんし、私でさえも自分が何をしているか、視覚的には判断できないのです。理想のサウンドを実現できているのですから、それこそが私にとって重要なことのすべてです。私にとっては、これがデジタル・コンソールのちょっとした欠点であり、人々がデジタル・コンソールに愛憎入り交じった感情を抱く理由なのかもしれません。何か大きな問題や、何か間違いがあったときに、自分で判断するのに時間がかかりすぎる要因となっています。それが本当に重要なのか?肝心な音はどうなんだ?と考えるべきです。

オン・ボードの話に戻りましょう… Revibe II (ドラム) は、地味な外観のために多くの人が見落としていますが、素晴らしいリバーブ・プラグインです。Sonnox のバンドルでは、ディエッサー (音割れ防止) に Suppressor DS、特定のドラムや BGV のリバーブに Oxford Reverb 、一部のバスに Oxford Inflator を使用しています。

Plugin Alliance Venue AAX bundle では、鍵盤に Elysia Mpressor、ボーカルに Maag Audio EQ4、タムとキックに SPL Transient designer + を使用しています。他にもたくさんありますが、今挙げたものは最高ですね!そして Waves のプラグインでは、H-Delay、H-Verb、Doubler、Abbey Road Real ADT、PSE、PS22、C6 です。結局これらは今も私の作業には欠かせないものとなっています。

FI