

アニメーション映画制作における映画エディターの役割は、実写映像のエディターには謎だらけです。主にポストプロダクションで編集作業を始めることに慣れた人から見ると、プロダクションで撮影した映像を取りだし、適切でテンポよく構成されたストーリーへ編集するアニメーションの工程は真逆に見えるかもしれません。実写映画は、最初に撮影して、後で編集します。アニメーションでは、まず編集して、後で「撮影」します。
ここでは、ベテランのアニメーション映画エディターから話を聞きながら、アニメーション制作作業におけるエディターの役割を探り、その謎を解き明かします。
アニメーション映画編集の工程
実写映画では、エディターが制作前の打ち合わせや企画に深く関わることがあります。中には、撮影現場に足を運んで制作過程を見学し、ポストプロダクションに必要な映像がカバーされていることを確認するエディターもいます。しかし、実写エディターが担うタスクは、すべてプロジェクトのポストプロダクションの段階に限られています。アニメーションの場合、エディターはプリプロダクションの段階からフル回転し、ワークフロー全体で重要なタスクを担います。
『トイ・ストーリー2』や『ボックストロール』などの映画を担当したエディターのエディー・イチオカ氏は、その工程を次のように要約しました。
「アニメーションでは、エディターは監督のビジョンに合わせて青写真を描き、練り直します。絵コンテとあらすじから始まり、プリビズ、レイアウト、脚本の最終稿、アニメーション、音楽、照明、合成ショット、スコア、最終ミックス、グレーディングへと進みます。各段階で次の段階へ引き継ぎます。前段階に戻って修正することも多々あります」
プリプロダクション
絵コンテとビデオコンテ
実写制作では、俳優が撮影現場に集まり、カメラが向けらえて、複数テイクが撮影されるという、見慣れた工程で行われます。どのショットを使うかは、ポストプロダクションの段階で決まります。しかし、このやり方でアニメーションを制作すると、莫大なコストがかかります。アニメーター、モデラ―、リガーを配置する前に、監督は使用するショットについて計画を立てる必要があります。
Avidの『Making the Cut』シリーズでイチオカ氏は次のように話しています。
アニメーションエディターは、あらすじ、音響効果、音楽と絵コンテを組み合わせてビデオコンテを作成し、ストーリーの最終的な構成を練ります。『アナと雪の女王2』で編集を担当したジェフ・ドラハイム氏は、Rough Cut ポッドキャストで次のように話しています。
「脚本が固まったら、まずは、ストーリーボード・アーティストが作業にかかります。シーケンス毎に絵コンテを作成して、編集に送ります。このシーケンスの作業だけで数日間費やし、尺を決めていきます。セリフがあるものでは、早い段階から俳優を参加させたくないので、多くの場合、代役で仮収録します。音響効果を加えているシーンも、同様に作業します。この作業を終えたら、音楽エディターをスタッフに加えてこれを渡し、シーケンスを一緒にチェックして、そこに入れる仮トラックについて話し合います」
まだアニメ―ショーンが1つも作られてなくても、この工程で、エディターは映画の「ファーストカット」を作成します。『スパイinデンジャー』のエディターであるクリストファー・キャンベル氏とランディ・トレーガー氏の Rough Cutでは次のように説明しています。
「絵コンテで、映画が決まります。映画のストーリーテリングという点では、編集的にものごとはここで固まります。最も重要な作業と言わざるを得ません。また編集の立場から言うと、最も楽しいパートの1つです」
プリビズ
ビデオコンテを仕上げたら、エディターはプリビズにとりかかります。この段階では、レイアウト・アーティストやビジュアル・デザイナーと連携して、アニメーションへの入り口を作成します。絵コンテを3Dコンピューター環境に取り込み、背景、小道具、キャラクターのモックアップ、カラーパレットなどの要素を入れて世界感を具体化し、アニメーターに作業のロードマップを提供します。
ドラハイム氏:「レイアウトまですべて承認されたシーケンスがアニメーターの手に渡ると、彼らの手腕が発揮されます」
制作
この段階で「撮影」が行われます。プリプロダクションで作られた土台を使い、アニメーターが作業に取り掛かります。ビデオコンテとプリビズ作業を基に、アニメーションの全ショットを作成します。エディターに戻ってくるのはこれらのショットです。カメラの前に俳優がいるわけではありませんが、編集して最終的なストーリーを作るための「映像」を作成します。
ポストプロダクション
アニメーターが「ショット」を作成したら、エディターは1つにまとめることができます。撮影された素材を最終シーケンスにレイアウトするこの段階は、最も実写編集に似ているかもしれません。しかし、実写のエディターは遭遇しそうもない特有の問題がいくつかあります。
それは、アニメーションで作られたショットが、エディターがプリプロダクションで計画したタイミングと一致するかという問題です。
ドラハイム氏:「映像が手元に戻り始めると、アニメーターがこのショットに24フレーム加えたとか、このショットから8フレーム抜いたなどということが分かります」
これが、少し厄介なところです。アニメーションは非常に労働集約的な作業ゆえに、コストがかかる工程です。これについて、サラ・ライマース氏(『メリダとおそろしの森』、『ファインディング・ドリー』)は、Making the Cut で次のように話しています。
「アニメーションはとにかくコストがかかるので、最終レンダリングの後に、編集の過度な微調整はできれば避けたい。ショットのリレンダリングになるようなことは、それなりの価値がなければならないのです」
この段階では、プリプロダクションにおけるエディターの仕事の重要性が浮き彫りになります。アニメーションにかかる前の準備のすべてが、ストーリーの流れを決めます。この時点でのペースやタイミングの変更は、事後に行うよりもはるかに簡単です。
すべてはストーリーテリング
アニメーション映画制作における映画エディターの役割は、実写エディターの役割とは大きく異なるのは事実ですが、結局のところ、目指すところは同じ「良いストーリーを作る」ことです。
イチオカ氏:「ストーリーがすべて。実写もアニメーションも使う通貨は同じですが、使い方が違うだけです。実写では前払いで、アニメーションでは、長期にわたり使い続けます。」
そして、この世界にどっぷり浸かるエディターは、とてつもない満足感を得ることができるのです。
トレーガー氏:「プロセス全体を通して、多種多様なクリエイティブ力が要求されるのは、実に楽しく、退屈することがありません。常に新しい何かがあり、それに取り組み、それを取り入れ、対処しています」